これだけ聞くと、「日本にもついに資源があるじゃないか」と期待したくなる。特にレアアースの精錬などで大きな存在感を持つ中国への依存を減らせる可能性がある。経済安全保障という意味では、かなり魅力的な話だと思う。2026年1~2月には、超深海から約50トンのレアアース泥を連続して揚げる試験にも成功しており、日本の深海技術が実際に結果を出したことは素直に評価していい。
ただ、僕はこのニュースを見て「日本の資源問題が解決する」とまでは、まだ思えない。むしろ現時点では、期待よりも「本当にここから商業化まで持っていけるのか」という疑念のほうが少し大きい。
理由は単純で、約50トンを採取できたことと、商業的に大量生産できることの間には、かなり大きな距離があるからだ。
南鳥島は本土から約1,900~2,000km離れている。しかも相手は水深約6,000mの海底だ。そこから泥を安定して引き上げ、脱水し、運搬し、精錬し、最終的にレアアースとして利用できる状態にする必要がある。商業化には1日数千トン規模の揚泥が必要になるともされており、現在の試験規模から考えると、まだまだスケールアップが必要になる。
ここが個人的には一番気になるところだ。
「技術的にできる」と「事業として成立する」は別物だからだ。
深海から泥を引き上げることに成功したとしても、それを何年も安定して続けられるのか。設備の故障やメンテナンスはどうするのか。遠隔地まで人や物資をどう運ぶのか。採取した泥をどう処理し、どこで精錬するのか。そこまで含めて採算が取れるのか。
こう考えていくと、海底に大量のレアアースがあるというニュースだけで喜ぶのは、少し気が早いようにも思う。
資源量についても同じだ。約1,600万トンという数字は非常に魅力的だが、海底全体をくまなく掘って確認した量というわけではない。調査地点によって濃度にばらつきがある可能性もあり、実際にどれだけの資源を経済的に回収できるのかは、これからさらに検証する必要がある。数字が大きいほどニュースとしては映えるが、「推定資源量」と「採算の取れる可採資源量」は分けて考えたほうがよさそうだ。
さらに環境面の問題もある。深海の生態系にどのような影響が出るのか、採取した泥を精錬するときに発生する廃棄物をどう処理するのかといった課題も残っている。資源を確保するためなら何をしてもいい、という話ではない。ここは商業化を進めるほど、むしろ重要になってくる部分だと思う。
それでも、このプロジェクトそのものを否定するつもりはない。むしろ僕は、こういう研究開発は続けてほしいと思っている。
レアアースの場合、単純な価格競争だけでは判断できないからだ。多少コストが高かったとしても、海外からの供給が突然途絶えたときに国内で調達できる可能性がある。それだけでも経済安全保障上の価値はある。普段は使わなくても、いざというときに使えるカードを持っていることには意味がある。
ただし、そのためにどこまで国費を投入するのかという問題は残る。民間企業だけでは採算が取れないのであれば、最終的には国がどこまで支えるのかという話になる。経済安全保障のための必要な投資と見るのか、それとも採算の合わない巨大プロジェクトと見るのか。ここは今後かなり議論になるところだろう。
Xなどを見ても、「中国依存から脱却できる」「日本の未来を変える資源だ」という期待がある一方で、「コストが高すぎるのでは」「本当に商業化できるのか」といった冷静な意見も多い。かなり両極端な反応が出ている印象だ。
僕としては、今の段階なら後者に少し寄って見ておきたい。
期待していないわけではない。むしろ成功すればかなり面白いと思う。ただ、現時点で「日本は資源大国になる」といった話まで膨らませてしまうと、後で現実とのギャップが大きくなりそうだ。
2027年には1日350トン規模の本格試験、2028年3月までには経済性を含めた産業化の総合評価が予定されている。まずはここで、どこまで現実的な数字が出てくるのかを見たい。
本当に重要なのは「採れた」というニュースより、その先だと思う。
どれくらいの量を安定して採れるのか。いくらかかるのか。環境への影響は許容できるのか。そして最終的に、海外から買うより多少高くても国内で確保する価値があるのか。
このあたりが見えてきて初めて、南鳥島沖のレアアースが「夢の資源」なのか、「日本の経済安全保障を支える現実的な資源」なのかが分かってくるのではないだろうか。
約6,000mの海底からレアアース泥を引き上げる技術に成功したこと自体は、かなりすごい。そこは素直に期待していいと思う。
ただ、その技術を商売にするところからが本番だ。
今は「日本の救世主」と持ち上げる段階でも、「どうせ無理」と切り捨てる段階でもない。期待はしつつ、少し疑いながら見ておく。そのくらいの距離感が、今の南鳥島沖レアアースにはちょうどいいのではないかと思う。
