エンジニア歴20年の僕が感じているのは日本は「未熟な技術」しか世界に勝てないってこと


僕は工学系の大学を卒業して今の会社に入り、以来ずっと製造系のエンジニアをやっています。若いころに1回部署が変わっているので、今やっている技術は20年くらい。まあ、ベテランと言えばベテラン。老害と言われかねない年頃です。

そんな僕がその20年間、世界の技術関連で起きた様々なイベントを見てきて感じたのは、日本って「未熟な技術」しか世界に勝てないんだなってことです。

「未熟な技術」ってどういうことかって言うと、まだ世に出たてで、技術的に十分に成熟していない段階ってこと。

半導体も液晶パネルも太陽光発電も、最初は日本が独走していたけど、成熟し始めたらあっという間に他国に抜かれてしまった、というアレです。

半導体は日米半導体協定がきっかけだって言われているけど、液晶パネルや太陽光発電は政治的な関与はあまりなかったはずです。自動車だって政治の道具にされたけどまだ強いわけで、半導体の弱体が政治関与だけとは説明しきれないんじゃないかと思っています。(自動車は成熟しているけどまだ日本が強いです。その理由は後述)

半導体、液晶パネル、太陽光、その他もろもろで日本が弱体したきっかけって、1つの共通点があると思っています。

生産現場のロボット化に成功した先に衰退がはじまる

僕たち製造エンジニアが目指すのは「まったく同じものを作り続けること」に尽きます。

品質も生産性もコストも「常に同じである」ことに力を注ぐわけです。

でも、技術が未熟な頃って品質にバラツキがあるし、生産性もコストも製品1個1個にバラツキが生じます。そこを何とか最小限に抑えていこうというのが、僕たち製造エンジニアの仕事なのです。

そういう努力の甲斐あって、何年か先に再現性の良い製造ラインの構築に成功したとします。

それってどういう姿かって言うと、製造装置がずらっと並んでいて、ロボットがモノを作っているような姿です。

ロボットって動きは正確なのですが融通が利かないので、品質バラツキが出ない製造条件が確立していないといけないし、いわゆる「やり直し」が発生するような製造法にはすこぶる不得意です。

一発勝負で同じ品質でたくさんモノができるようになった先に、人によるバラツキを抑えるためにロボット化となるわけです。

そんな姿が僕たちエンジニアの目指す姿であって、それに向けて日々精進しているわけです。

しかし、そこから大きなジレンマが始まるんです。

再現性の良い技術はマネされやすいというジレンマ

先に書いた通り、僕たちエンジニアは生産する製品の品質が一定になるよう努力します。それが、製造エンジニアにとって(設計エンジニアにとっても)「技術を確立する」と同義なのです。

しかし、その先に待っているのが「模倣されやすい技術」に転じてしまうというジレンマなんですね。乱暴に言ってしまうと、同じ製造装置を購入すれば作れてしまうんです。

それが、かつての半導体や液晶パネルなどです。

韓国や中国にあっという間に抜かれてしまった最大の原因です。

日本のエンジニアが引き抜かれてしまったのが原因だって言う人もいるけど、それは技術の枝葉の部分でしかなく、未熟で再現性の悪い技術だったらそう簡単ではありません。装置を買ってエンジニアを引き抜いた程度では同じモノが作れないです。多くの「未知のパラメーター」が悪さをして同じモノは作れません。

流出するのは、あくまで技術が確立したものに限ります。

で、最終的に価格競争に敗れて日本でのその技術は衰退していきます。

「衰退」というのはちょっと語弊があるかもしれません。技術そのものは悪くなることはありません。正確には「売れなくなる」「赤字になる」という意味です。でも、一般的に衰退という言葉を使うのはそんな場面ですね。(半導体も液晶もいまだもって技術力は高いです)

価格競争にすこぶる不得意な日本

もう、これは日本人の持って生まれた性質とあきらめるしかないんじゃないかと思っています。

よく言えば繊細で精緻。悪く言えばセコイのが日本人です。

まず、お金の使い方は中国人には到底かなわないです。彼らは桁違いのお金で一気に投資してしまい、ものすごい人数のエンジニアを雇って立ち上げる力は、日本人には到底かなわないです。

1つ1つの投資案件に細かい資料を作って承認を得ている間に、中国人はあっという間に生産ラインを立ち上げてしまうという、もうこれは仕方ないですね。

日本人のそのようなセコイ性格が、安定した品質のものを作り出しているとしたら、それを批判するつもりもないし、中国人みたいになれとも言えません。

とにかく、圧倒的なスピードと価格破壊に対して、日本人は正面きって対決しちゃいけないと思います。とてもかなわないです。

技術を確立し、製造ラインをロボット化した先に、そういった世界が待っているというわけです。それが、かつての半導体であり液晶パネルなんです。

じゃあ、日本はどうすればいいのか?

2004年にIBMがパソコン事業を中国のLenovoに売却しました。

このニュースを見て、僕は椅子から転げ落ちるかと思うほどビックリしました。

まだまだThinkPadブランドは強かったし、日本のパソコン事業は当時それぞれの企業でドル箱だったかと思います。ソニーのVAIOが快進撃を続けていた時代です。

VAIOシリーズの出荷台数は、1999年度に約140万台、2004年度に330万台、2009年度に680万台と徐々に増加し、過去最高となった2010年度は870万台となった。
Wikipediaより抜粋

・・・という当時を考えても、パソコン全盛期の2004年に中国に売却するって当時は暴挙としか思えなかったです。

ところが、今振り替えて見れば、その判断は正しかったと言えます。その後の日本のパソコン事業の不振を考えると、IBMの当時の判断はあまりにも華麗です。高く売れるときに売ったという判断は正しかったと。

VAIOはご承知の通り今となってはお荷物事業になってしまって、分社化しましたが、もっと前だったら中国か台湾にブランドごと高く売れたんじゃないかなって思います。

僕は、これからの日本は技術を確立した暁には(しばらくは利益を享受するとしても)、その技術が高く売れるときに売ってしまう、というのが正解なんじゃないかなって思っています。

その技術が会社のお荷物になる前に。

シャープを鴻海に売却したことを批判した人たちへ

海外、とりわけアジア圏に技術を売却すると、すぐに「技術の流出」と騒ぐ人たちがいます。

でも、技術って結局のところ儲からないと意味がないんですよね。

僕はシャープの液晶技術はもっと早く売却すべきだったと思います。その方がもっと高値で売れていたからです。その先に赤字を垂れ流すくらいなら、高く売れる時期に売ってしまって、そのお金で次の技術に投資するという循環が必要だと思います。

今回書いたように、日本のように技術を確立した先に衰退が始まるような国では、赤字技術を持ち続けてはダメなんです。そこから黒字転換しようと努力するよりも、早々と売却してその資金を新しい技術に投下した方が、日本人的は得意だと思います。

むしろ、シャープにはなぜもっと早く売却しなかったんだって批判すべきなんですよね。

雪の日に会社に行くサラリーマンを批判する人へ

本題からはちょっとズレますが、大雪や嵐の日になると必ず現れるのが、それでも出勤するサラリーマンを批判する人たち。あと、満員電車に乗っていくサラリーマンを批判する人たちです。

僕は田舎に住んでいて、会社から車で5分くらいのところに住んでいます。なので、大雪や嵐でも比較的簡単に出勤できるし、満員電車にも乗る必要はありません。それでも東京でがんばって出勤するサラリーマンを、みんなみたいに批判する気持ちはありません。

必ず言われるのが、在宅勤務とか生産現場のロボット化とか。

ロボット化についてはこれ以上言いませんが、僕たちエンジニアはどうしても在宅勤務が難しいです。「確立していない未熟な技術」は常にエンジニアのケアが必要になるので、その場にいなければなりません。在宅勤務できるほど甘くないんです。

もちろん、僕たちが在宅勤務で対応できるくらい安定した技術になるよう努力します。僕たちが目指す先はそこです。

ところが、ゴールした先に衰退が待っているというジレンマがあり、そうなったら別の意味で苦しい時期(リストラとか)を過ごすか、華麗に売却できたらできたで、今度はまた新しい未熟な技術にシフトするという。結局のところ僕たちは一生在宅勤務なんてできないんですね。

最後に自動車産業のこと言っておくよ

日本は自動車産業に支えられていると言って過言じゃないです。

この業界も紆余曲折があったにせよ、今は世界ナンバーワンと言って良いし、ほとんどの工業メーカーが自動車産業のサプライチェーンの一画を担っていると言って良いんじゃないかな。

日本の自動車技術って、成熟していてもまだ日本が世界で勝っていると言って良いめずらしい業界です。たぶん、強固なサプライチェーンとコアのエンジン技術を確保しているという点、あとは常に安全性能を厳しく問われるという点で日本人の気質にあっているんじゃないかなって思っています。

ただ、これも電気自動車の登場でひっくり返る危険性があります。

部品点数が少なくなるからとか、技術開発が遅れているとか、いろいろ言われていて、たぶんその通りだと思うのですが…、

個人的にはなんかデジタル的だなって。

なんとなく、そういうのって半導体と近い感じだなって。

いかにも日本人が不得意とするゾーンが今後自動車産業に現れるんじゃないかなって思えて仕方ないです。

だとしたら、今の電気自動車技術の遅れを巻き返すことも難しいし、巻き返せても相当苦しい戦いになりますよ。

そうなると、自動車産業に依存しすぎている日本のモノ作りはかなり壊滅的になるんじゃないかなって危惧しています。

今後、エンジニアという職業自体が厳しくなっていくんじゃないかなって思います。中国や韓国がほしいのは、あくまで経験値の高いエンジニアであって新人じゃないです。新人エンジニアだったら自国で調達した方がいいですからね。

もし、うちの息子が理系で工業系のエンジニアを目指したら、少し考えちゃうな。その時の情勢でまた考えが変わるかもしれないけど、今だったらあまりお勧めできないって言うかも。