僕は以前から、地球温暖化対策としてCO₂削減ばかりが強調されることに、少し違和感があった。
もちろん、CO₂が温室効果ガスであり、人間の排出によって大気中濃度が増えていることは理解している。CO₂が温暖化に影響していないと言いたいわけでもない。
ただ、温暖化を本気で抑えたいのであれば、まず「何がどれだけ温暖化に効いているのか」を確認し、影響の大きいものから対策するのが普通ではないだろうか。
そこで、感覚ではなく、公表されている数字と理論を一度整理してみた。
CO₂は50年でどれくらい増えたのか
産業革命前のCO₂濃度は約280ppm。現在は約430ppmなので、かなり増えている。
1970年代半ばには約330ppmだったため、50年ほどで約100ppm、割合にすると約3割増えたことになる。
それでも現在の大気中CO₂は約0.043%だ。
「0.04%しかない」と考えると不思議に感じるが、濃度の割合だけで温室効果の大きさを判断することはできない。CO₂には赤外線を吸収する性質があり、濃度が増えれば地球の放熱にも影響する。
IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、CO₂濃度が2倍になった場合の放射強制力を約3.93W/m²、平衡気候感度を約3℃と評価している。
つまり、CO₂の影響を小さいと片付けることもできない。ここは事実として認める必要があると思う。
では、CO₂を減らせば気温はどれだけ下がるのか
ここが今回一番気になったところだ。
現在の約430ppmを産業革命前の約280ppmまで戻した場合、CO₂による放射強制力は理論上約2.2W/m²減少する。
CO₂倍増時の3.93W/m²と、気候感度3℃を単純に対応させると、約1.7℃の冷却に相当する。
ただし、これはあくまで単純な理論計算だ。海洋の熱吸収や他の温室効果ガス、エアロゾルなどを考慮していないため、「CO₂を280ppmに戻せば実際の気温が1.7℃下がる」という意味ではない。
さらに重要なのが、CO₂排出ゼロとCO₂濃度を280ppmまで戻すことは全く違うという点だ。
ネットゼロCO₂は、排出と吸収を差し引いて正味の排出をゼロにすること。大気中のCO₂を産業革命前まで戻すことではない。
つまりCO₂削減の主な役割は、「現在の気温を大幅に下げる」ことではなく、これ以上の温暖化を抑えることにある。
1.5℃目標も「1.5℃冷やす」という話ではない
ここも意外と誤解されていると思う。
パリ協定の1.5℃目標は、現在の地球を1.5℃冷やすという意味ではない。産業革命前を基準として、気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力をするという目標だ。
つまり「冷却目標」ではなく、「温暖化をどこまでに抑えるか」という目標になる。
現在の世界平均気温は、すでに産業革命前より約1.4℃高い水準にある。
ここまで整理すると、世の中で語られている「CO₂削減」と「温暖化対策」の関係に、少し違和感を持つのも分からなくはない。
CO₂削減は重要だ。しかし、それによって現在の気温を大きく下げるわけではない。
では、なぜCO₂ばかりがやり玉に挙がるのか
僕が個人的に納得しきれないのは、ここだ。
CO₂が問題になる最大の理由の一つは、人間が大量に排出しているからだ。
しかし、温暖化という現象そのものを考えるなら、「人間が排出したものかどうか」ではなく、まず「何が気温にどれだけ影響しているのか」を見るべきではないかと思う。
大気の温室効果という観点では、水蒸気や雲の影響はCO₂より大きい。
もちろん、水蒸気を減らせばいいという単純な話ではない。水蒸気は気温によって増減するため、CO₂とは性質が違う。人間が排出量を調整できるものでもない。
だからこそ、ここで話を分ける必要がある。
「温暖化に大きく影響するもの」と「人間が削減できるもの」は同じではない。
自然現象だから無視する、という話でもない。
むしろ温暖化を本気で抑えたいのであれば、まずは温室効果を大きく左右する自然のフィードバックを正確に理解すること、そして人間が実際に操作できる範囲では、CO₂だけでなくメタンなど他の温室効果ガスも含めて、影響と費用対効果の大きいものから対策することが先決ではないかと思う。
さらに「温暖化そのものを止める」という目的なら、排出削減だけでなく、都市の暑熱対策や断熱、冷房効率化など、実際に人間が受ける熱を減らす対策も重要になる。
CO₂を減らすことと、温暖化を止めることは同じではない
ここを混同すると話がおかしくなる。
「CO₂が温暖化の主要な人為的要因である」
これは現在の科学的知見と矛盾しない。
しかし、
「だからCO₂削減こそが、あらゆる温暖化対策の中で最優先である」
となると、そこには別の議論が入ってくる。
科学が教えてくれるのは、CO₂が増えれば温暖化すること、累積排出量が増えるほど温暖化が進むこと、そしてネットゼロCO₂によってCO₂による温暖化を概ね安定化できることだ。
一方で、どの対策にどれだけのお金を投入するのが最適なのかは、科学だけでは決まらない。
CO₂削減、メタン削減、適応策、CO₂除去、さらには将来的な直接的冷却技術まで、費用、効果、副作用を比較する必要がある。
僕が違和感を持っているのは、CO₂削減そのものというより、「CO₂を減らすこと」と「温暖化を対策すること」が、いつの間にかほぼ同じ意味になってしまっていることなのだと思う。
温暖化対策の目的は、CO₂を減らしたという実績を作ることではない。
最終的には、気温上昇や、それによって生じる被害をどれだけ小さくできたかが重要なはずだ。
そう考えると、「CO₂を何%削減したか」だけではなく、そのために使ったお金で、実際にどれだけ温暖化を抑えられたのかまで見てみたくなる。
この視点で考えると、今の温暖化対策は、本当に目的と手段が一致しているのか。
僕はそこをもう少し冷静に考えてみたいと思う。
